「グリスや接着剤を自動塗布したいのに、吐出量がばらついてしまう」「導入したディスペンサーがすぐ詰まってラインが止まる」——こんな悩みを抱えている現場担当者の方は、意外と多いのではないでしょうか。
はじめまして。生産設備の選定・導入コンサルタントとして15年以上、製造業の現場で設備改善に携わってきた田中誠と申します。これまで数多くの工場でディスペンサー選定の相談を受けてきましたが、「高粘度材料への対応」を誤ってしまった案件が後を絶ちません。
高粘度材料は、水のようなサラサラした液体と違い、機器への負荷が大きく、選定を一歩間違えると吐出不良・設備故障・品質クレームという負のスパイラルに陥ります。本記事では、実際の失敗事例を交えながら、高粘度材料に対応できるディスペンサーを正しく見極めるためのポイントを、できるだけ具体的にお伝えします。
目次
高粘度材料がディスペンサーにもたらす課題
粘度とは何か?数値で理解する
ディスペンサー選定の話をする前に、まず「粘度」という数値を正しく理解しておきましょう。粘度の単位は「mPa・s(ミリパスカル秒)」で表されます。身近な例で言うと、水は約1 mPa・s、食用油は約100 mPa・s、ハチミツは約10,000 mPa・s程度です。
製造現場でよく扱われる材料の目安は以下の通りです。
| 材料の種類 | 粘度の目安(mPa・s) |
|---|---|
| 洗浄液・インク | 1〜100 |
| 低粘度接着剤・UV硬化剤 | 100〜5,000 |
| シリコーン系接着剤 | 5,000〜50,000 |
| エポキシ樹脂(高粘度タイプ) | 50,000〜300,000 |
| グリス・ペースト状材料 | 100,000〜1,000,000以上 |
一般的に、10,000 mPa・s以上になると「高粘度」として特別な対応が必要とされます。この粘度帯は、通常のエア式ディスペンサーでは安定した吐出が困難になってくる領域です。
高粘度材料特有のトラブル
高粘度材料は粘り気が強い分、通常の液体とは異なる問題を引き起こします。現場でよく見られるトラブルを整理すると、主に以下の4つが挙げられます。
- 糸引き(テーリング):ノズルを離す際に液が切れず、糸のように伸びてしまう現象。ワーク汚染や塗布精度の低下に直結します
- 液ダレ:吐出停止後も液が垂れ続けてしまう現象。過剰塗布による品質不良や周辺装置の汚染を招きます
- 吐出量のばらつき:粘度が高いほど温度の影響を受けやすく、わずかな室温変化で吐出量が不安定になります
- ノズル詰まり:粘度が高い材料は流路を塞ぎやすく、長時間の停止後や連続運転でノズルが詰まるリスクが高まります
これらのトラブルは、適切なディスペンサーを選べば多くの場合は防げます。逆に言えば、機器選定のミスがそのまま現場の問題として表面化するのが、高粘度材料の怖いところです。
ディスペンサー選定で陥りやすい失敗事例
これまでの現場経験から、高粘度材料の塗布工程でよく見られる失敗パターンをいくつかご紹介します。自社の状況と照らし合わせながら読んでみてください。
失敗事例① 粘度スペックの確認不足
ある精密部品メーカーでは、「接着剤の塗布を自動化したい」という要望に対し、カタログスペックだけで機器を選定しました。導入後に発覚したのは、使用している接着剤の粘度が50,000 mPa・sを超えており、導入したディスペンサーの対応粘度上限(30,000 mPa・s)を大幅に超えていたという事実です。
結果、モーターへの負荷が大きく、導入からわずか3ヶ月でポンプユニットが故障。修理と再選定のためにラインが2週間停止しました。
このケースの根本原因は、「使用材料の粘度を正確に測定・把握していなかった」ことです。材料メーカーのデータシートに記載の粘度はあくまでも標準値であり、実際の使用環境(温度・せん断速度など)によって大きく変わります。選定前に必ず実測値を確認することが重要です。
失敗事例② 吐出方式のミスマッチ
電子部品の封止工程を担当する別のメーカーでは、エアシリンジ式のディスペンサーで高粘度のシリコーン樹脂の塗布を行っていました。エア圧を上げれば吐出できると考えていたのですが、実際には高粘度材料に高圧エアをかけ続けると、材料内に気泡が発生しやすくなります。
気泡の混入は封止不良につながるため、品質クレームが相次ぎ、最終的には吐出方式を見直さざるを得ない状況になりました。
エアシリンジ式は低〜中粘度の液体に適した方式です。高粘度材料には、後述するプランジャーポンプ式やスクリュー式のような機械的に押し出す方式が向いています。
失敗事例③ コスト優先による機種選定
「とにかく安く抑えたい」という判断から、対応粘度の仕様をギリギリ満たす低価格機種を選んだ食品機械メーカーの事例です。導入当初は問題なく動作していましたが、季節が変わって気温が下がると、材料の粘度が上昇して吐出不良が多発するようになりました。
粘度と温度は密接な関係にあります。冬場の工場内では、夏場に比べて材料粘度が数倍になることも珍しくありません。余裕を持った粘度仕様の機種を選んでおかないと、季節ごとに設定変更やトラブル対応に追われることになります。
失敗事例④ フィラー入り材料への無対応
熱伝導グリスや銀ペーストなど、フィラー(粒子状の充填剤)が含まれた材料を、一般的なディスペンサーで塗布しようとした事例も多く見られます。フィラー入り材料は、通常のポンプ機構では粒子が詰まったり、流路を摩耗させたりする問題が起きやすいです。
メーカーのスペック表には「対応粘度」しか記載されていない場合もありますが、フィラー含有材料を扱う場合は「フィラー対応」の明記がある機種を必ず選ぶ必要があります。この確認を怠ると、数ヶ月で流路が摩耗して交換が必要になり、維持コストが跳ね上がってしまいます。
吐出方式ごとの特徴と高粘度材料への適性
ディスペンサーの吐出方式は大きく分けて「エア式」「バルブ式」「スクリュー式」「プランジャーポンプ式」などがあります。それぞれの特徴と高粘度材料への適性を整理してみましょう。
エアシリンジ式
圧縮エアでシリンジ内の液体を押し出す最もシンプルな方式です。構造が単純で安価なため、試作段階や少量生産向けによく使われます。ただし、高粘度材料には不向きで、対応粘度はおおむね10,000 mPa・s以下が目安です。気泡の混入リスクもあるため、封止工程などには使用を避けた方が無難です。
プランジャーポンプ式
シリンダー内のプランジャー(ピストン)が往復運動することで、一定量の液体を機械的に押し出す方式です。体積計量のため粘度変化の影響を受けにくく、繰り返し精度が高いのが特徴です。中〜高粘度材料に広く対応しており、定量塗布が求められる用途に適しています。
スクリュー式(一軸偏心ねじポンプ式)
スクリューの回転によって液体を連続的に押し出す方式です。スクリューの回転数と吐出量が比例するため制御しやすく、連続塗布(ビード塗布)に向いています。フィラー入り材料にも対応している機種が多く、幅広い粘度帯に使えるのが強みです。
高粘度対応ポンプ式
非常に高い粘度(100,000 mPa・s以上)の材料には、専用の高圧ポンプ機構を持つ機種が必要になります。内部圧力を大幅に高めることで、ペースト状の材料でも安定した吐出が可能になります。
吐出方式の選び方を簡単に整理すると、以下の通りです。
| 吐出方式 | 適した粘度範囲 | 主な特徴 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| エアシリンジ式 | 〜10,000 mPa・s | 安価・シンプル | 気泡混入リスク |
| プランジャーポンプ式 | 1〜300,000 mPa・s | 定量精度が高い | メンテナンスコスト |
| スクリュー式 | 1〜500,000 mPa・s | 連続塗布向き・フィラー対応 | 初期コストが高め |
| 高圧ポンプ式 | 〜1,000,000 mPa・s以上 | 超高粘度に対応 | 大型・高価格 |
高粘度対応ディスペンサーを見極める7つのチェックポイント
実際の選定場面では、カタログを見るだけでなく以下の7つの視点でチェックすることをおすすめします。
- 対応粘度範囲:使用材料の粘度を実測し、「上限値に余裕がある機種」を選ぶ。最低でも使用粘度の1.5〜2倍の余裕を持たせる
- 吐出方式:液体の性状(粘度・フィラー有無・ポットライフ)に合った方式を選ぶ
- 吐出圧力:高粘度材料ほど高い圧力が必要。内部圧力の仕様を確認する
- ノズル仕様:内径が細すぎると詰まる。テーパー形状のノズルは糸引き防止に有効
- 温度管理機能:材料の保温・加熱機能の有無。季節変動がある現場では必須
- メンテナンス性:分解・洗浄の容易さ。高粘度材料は流路に残りやすく、日常メンテが重要
- 実機テストの実施:実際の材料と条件で塗布テストを行い、吐出量の安定性を確認する
特に最後の「実機テスト」は、どれだけ仕様を確認しても代替できない重要なプロセスです。信頼できるメーカーであれば、事前に材料を持ち込んでテストに対応してもらえるはずです。
高粘度対応ディスペンサーの選定で参考にしたい製品事例
高粘度材料の塗布に特化した機種として、国内メーカーの製品が参考になります。
たとえばナカリキッドコントロールが手がける高粘度材料対応の精密ポンプディスペンサー「P-FLOW H型」は、内部圧力を19.6MPaまで高めることで最大1,050,000 mPa・sという超高粘度材料にも対応できる設計になっています。
この機種の特徴として特に注目したいのが、粘度範囲の広さです。1 mPa・sから1,050,000 mPa・sまでと、低粘度から超高粘度まで一台でカバーできます。「使用材料が変わるたびに機種を変えなければならない」という煩わしさを解消できる点は、多品種少量生産の現場で大きなメリットになります。
また、XYZ軸の移動機構を内蔵しており、自動化ラインへの組み込みもしやすい構造になっています。縦型フィルター機構を採用しているため、フィラー入り材料への対応も可能です。
高粘度材料の塗布工程で「既存機では対応しきれない」という場面に直面したとき、このような専用設計の機種を比較検討の俎上に載せることで、選定の精度が上がります。
ポイントは「自社の材料の粘度上限に対して、十分な余裕があるか」と「実機テストで安定した吐出が確認できるか」の2点です。スペックだけで判断せず、必ずメーカーと連携して実際の条件でテストを行うことをおすすめします。
まとめ
高粘度材料に対応できるディスペンサーを選定するためのポイントを、失敗事例を交えながらお伝えしてきました。最後に要点を整理します。
- 使用材料の粘度は実測し、スペックに余裕のある機種を選ぶ
- 吐出方式は粘度・フィラー含有・連続/定量塗布の違いで最適解が異なる
- 温度による粘度変化を考慮し、保温・加熱機能の必要性を検討する
- コスト最優先の選定は、トラブル対応コストで逆転されやすい
- 実機テストは必ず実施し、実使用条件での安定性を確認する
ディスペンサーの選定は一度失敗すると、ラインの停止・品質不良・再選定コストなど複合的な損失につながります。焦って決めず、メーカーや設備コンサルタントを巻き込みながら丁寧に進めることが、結果として最短ルートになることが多いです。
本記事が、皆さまの設備選定の一助になれば幸いです。



